世界最大の企業、小売大手のウォルマートが、昨年より環境問題に真剣に取り組み始めたとして話題を集めている。環境ビジョンをとりまとめた他、Carbon Disclosure Project(CDP)とのパートーナシップでのエネルギー消費・温暖化ガスの排出削減、ソーラー・エネルギーへの転換など、同社の環境イニシアチブの概要を報告する。br />
1.ウォルマートの環境ビジョン
ウォルマートはフォーチュン500、フォーチュン・グローバル500のいずれでも1位にランクされる、世界最大の企業だ。2006年の売り上げは3511億3900万ドル、従業員数は190万人にのぼっている。
「Every Day Low Price」(毎日安値)をキャッチフレーズに、低価格を最大の武器に拡大を続けてきた同社が昨今、真剣に環境問題に取り組み始めたとして注目を集めている。労使関係などをめぐり、これまで何度も法廷闘争やボイコット運動の標的となり、環境や社会にやさしい企業というイメージとは無縁だった同社が遂に重い腰を上げたのである。
なお、同社はキャッチフレーズを2007年9月、19年間使用してきた「Every Day Low Prices」から「Save Money. Live Better.」(お金を節約して、よりよく暮らす)へ変更すると発表した。安売りを全面に押し出すのではなく、「よりよい暮らし」のために、環境に配慮した製品を含めた高品質製品を提供する。戦略変更は市場、消費者の志向の変化に伴い、安さだけでは競争に勝ち続けることができないと判断したためだが、この変更はウォルマートが環境対策に真剣に取り組む意思があることを示す一例といってもよいだろう。
-----ウォルマートの環境ビジョン-----
- 使用エネルギーを100%再生可能エネルギーに切り替える
- 既存店については今後7年間で25%エネルギー効率を上げる
- 新規店については今後4年間で30%エネルギー効率を上げる
- 廃棄物ゼロの達成
- 今後3年間で廃棄物を25%削減する
- プライベートブランドの包装を2年間で削減する
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2.ウォルマートの環境イニシアチブ
(1)濃縮型 衣料用洗剤のみのマーチャンダイジング
2007年9月、同社は衣料用洗剤に関しては、濃縮型しか取り扱わないことを決定、今年5月までに、ウォルマートと系列のサムズ全店で実現する予定になっている。同社ではこれにより、4億ガロン以上の水、9500万ポンド以上のプラスチック樹脂、1億2500万ポンド以上の段ボールを節約できるとしている。ウォルマートが販売する衣料用洗剤のシェアは全米の25%を占めており、この決断が業界に与える影響は大きいと見られている。
(2)Carbon Disclosure Project(CDP)とのパートーナシップ
昨年9月、環境NPO、Carbon Disclosure Project(CDP)とのパートナーシップにより、サプライチェーン上における特定商品のエネルギー消費量を測り、温室効果ガス排出削減を目指すイニシアチブが始まった。CDPは機関投資組織が中心となって運営されているNPOで、企業活動と温室効果ガス排出量を関連付ける取り組みを行っている。具体的には、まずコモディティに属する7分野の商品を提供する25~30メーカーを選択し、商品製造から配送に至るまでのエネルギー消費量を測定、温室効果ガス排出量を削減する手段についてメーカーとともにパイロットテストを実施するとしている。
(3)ソーラーエネルギーへの転換
将来的には使用エネルギーのすべてを代替エネルギーに転換することを目標に掲げ、2007年5月、ソーラーパワーへの転換計画を発表した。まずカリフォルニア州とハワイ州の22店舗に導入、結果を見て、4000店舗に導入するかどうかを決めるとしている。
(4)オーガニック製品の取り扱いを開始
オーガニック生鮮食料品、オーガニックコットン素材の衣類の取り扱いを始めたほか、2007年6月からはMSC (Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)と呼ばれるサステイナブルな方法で水揚げされた魚介類の取り扱いを開始した。同社は今後3~5年以内に、取り扱い北米産シーフードについてはすべて認証済みにするとしている。
この取り組みが注目されている理由のひとつは、ウォルマートが単に市場に出回っている認証済みシーフードを調達するのではなく、シーフードサプライヤーに対し、MSCの認証を取るよう推奨している点にある。最終的には200~500アイテムを認証済みにするとしているが、これは大手自然食スーパーマーケットチェーン、ホールフーズが現在揃えている18を大きく上回る。また、ホールフーズではサプライヤーに認証を取るよう薦める取り組みはしておらず、この点においてはウォルマートの取り組みが一歩進んでいるといえる。
(5)ゼロエミッションに向けた努力
同社は2007年3月、取引先である食品・日用品メーカー約6万社を対象に、簡易包装化を要求した。これを受け、日用品大手のプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が既に商品小型化などに向けた行動を開始している。
また、取引先を対象とした、包装材の環境負荷の「格付けシステム」も検討されている。プラスチックや紙の利用量など必要項目を入力すると、石油使用量や温暖化ガス排出量などを自動的に算出する仕組みで、これを今後、取引先の選別や、取引先との再生可能な素材などの共同開発に役立てる構えだ。
3.ウォルマートの環境対策が与える影響
ウォルマートは小売業界の環境対策においては後発だ。既に小売大手の多くがソーラーパワーの導入、プラスチック製レジ袋の廃止、リサイクルプログラムの導入などを進めており、この点でウォルマートが同業に与える影響はそれほど多くないといっていいだろう。
むしろ、注目されるのは、メーカーへの影響だ。サプライヤーに対し、強大な影響力を持つことで知られる同社は今後、食品、日用品から家電まで、あらゆるメーカーのプラクティスを大きく変えていく可能性が高い。特に、サプライヤーの格付けシステムが確立すれば、「環境にやさしい企業」でなければ、ウォルマートの陳列棚に並ぶことができなくなる。巨大企業による圧力が今後、米企業を急速に変えることは必至といえる。
大きな変化は消費者意識にももたらされるだろう。全米に4000店、国外に2900店を展開する同社は、環境意識がそれほど高くない、保守的な地域に暮らす大量の消費者に容易に到達できる、他に2つとない存在だ。これまで、圧倒的なボリュームパワーで「安値」を実現してきた同社が今後、同じ力をもって、一気にアメリカ大衆と米大手企業の意識を変える可能性は高い。