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UCLA Post-Doctoral Fellow 合田 圭介

ドラえもんの道具の実現可能性

「ドラえもん」とは1970年代から1990年代まで幅広い年代に人気のあった藤子・F・不二雄によるSF漫画であるが、そこに登場するドラえもんの秘密道具(タイムマシン、どこでもドア、透明マント、4次元ポケット等)は一見漫画の世界だけで可能なものにみえる。 しかし、これらの秘密道具は決して夢物語ではなく、最近の科学の成果により現実味を帯びてきている。最先端の物理の現場よりドラえもんの道具の実現可能性、そして最新の研究成果に関してレポートする。

ドラえもんの秘密道具の一つである「透明マント」とは外観は透明な布で、これで覆ったものは目に見えなくなるので頭からすっぽりかぶって全身を覆えば透明人間として行動できる。他の映画やテレビ番組でも類似物(Harry Potterの透明マント、プレデターの遮蔽装置、Star Trekのクリンゴン船)が見られる。これは原理的には光学遮蔽(Optical Cloaking)というもので説明が可能である。米国のDuke University、Stanford University、Perdue University、University of Pennsylvania、英国のImperial College、UCLAなどで研究が行われている。主な目的は軍事である。

Optical Cloakingは科学界では真剣に理論と実験的検証が議論されている。R. A. Shelby(Science 2001)らによってOptical Cloakingにつながる技術のNegative Index of Refractionが実験的に実現された。これはMicrowave波長で実現されたが、最近のW. Cai (Nature Photonics 2007)らやC. M. Soukoulis (Science 2007)らによって可視光帯域(370-780nm)でのOptical Cloakingの実現について理論的に議論された。このNegative Index of Refractionとは負の屈折率を意味し、負の屈折率をもつ物質をMetamaterialと呼ぶ。屈折という現象は直進する光線が異なる媒質の境界で進行方向が変わることを指し、これは日常的に観察することができる。自然界の物質はすべて正の屈折率を持つが、最近のナノテクの進歩と新素材の開発により負の屈折率をもつ物質Metamaterialの作成が可能となってきている。

このMetamaterialの応用は様々な物があるが、重要なものの一つとしてスーパーレンズの実現である。スーパーレンズを用いる光の波長よりも小さなスケールを扱うことができないという回折限界を突破することが可能である。スーパーレンズが実用化されると、波長以下のものが見れる光学顕微鏡が可能となる。これは生物学や医学等の分野でナノスケールの生体物を観察するのに非常に重要である。更にスーパーレンズは光ディスクの容量を飛躍的に上げる。これはより小さな情報がディスクに書き込める、もしくは読み取れるからである。これは更なる半導体技術の微細化にもつながる。Microwave波長でのスーパーレンズの実現は2005年にUC Berkeleyのチームによって世界で初めて報告された。これは既存の光学顕微鏡の6倍の解像度を持つものを実証した。

Metamaterialを用いた光学遮蔽(Optical Cloaking)の主な応用は軍事である。これを実際に使用するとテレビ番組Star Trek等でも見られるが戦車、戦闘機、戦艦、兵隊等を見えなくさせることが可能である。事実、米国国防総省はOptical Cloakingの研究へのFundingに力を入れている。Microwave波長ではもうすでに実現されたが、可視光帯域でのMetamaterialの研究が現在活発に世界中で行われている。UCLAのItoh研究室ではMetamaterialの特性を利用した新しいデバイスの開発を行っている。ドラえもんの透明マントは近い将来実現可能になると予想される。

ドラえもんのほかの秘密道具の一つである「どこでもドア」とはドアを模した瞬間移動の道具であり、類実物が他の映画、テレビ番組等でも見られる。映画The Flyでは転送技術を用いたシーンがある。この転送とは原理的には量子テレポーテーションという技術で説明可能である。主に東京大学、オーストリアのInnsbruck大学、米国のCaltech、MIT、NIST等で研究されている。

量子テレポーテーションの概念は実は1950年代以前から活発に研究されてきた。Albert EinsteinがEPRパラドックスという概念を発表したが、これが量子テレポーテーションに近い概念である。オーストリアのInnsbruck大学のチームが1997年に世界で初めて実験的に量子状態のテレポーテーションを実現したと発表した(Nature 1997)。これは光の量子情報を離れた2点A地点からB地点へ移動させた。2004年には原子の量子情報を転送したと米国のNISTとオーストリアのInnsbruck大学がそれぞれ発表した。

この量子情報とは量子力学における概念である。量子力学は電子、原子核などの間の微視的な現象を説明する物理学の理論であり、現代の電子工学、物性物理、化学、半導体技術の基礎となっている。量子力学では対象を状態の重ねあわせとして記述し、観測によって一つの状態がある確立で実現する。つまり粒子(量子)の状態(量子状態)は確立で表される。

人間を含むすべての物体は原子で構成されているため、物体をA地点からB地点へ転送するには、A地点でその物体を構成する原子一つ一つの状態を性格に読み取り、B地点へ電磁波で光速で送り、B地点にあるものでその原子情報を元にその物体を再構築する。量子テレポーテーションの概念は非常に難解であるためここでは具体的には述べないが、2004年に発表された原子の量子テレポーテーションは転送技術の原理的検証であり、非常に有意義なものである。2004年のNature誌でKimbleとVan Enkはこの技術は量子コンピューターの量子情報の転送に応用可能と述べている。量子コンピューターとは量子力学的な重ねあわせを用いて並列性を実現する次世代のコンピューターであり、計算能力が10億倍-50億倍も高まるといわれている。現在のスーパーコンピューターでも何十億年もかかる計算が量子コンピューターでは1年ほどで十分である。

結論として、ドラえもんの秘密道具は一見SFっぽいが科学界では真剣に議論されており、近い将来実現可能なものはいくつかある。これらの道具が実現可能になると様々な応用が考えられる。

(本テーマは、1月12日にSCSN技術フォーラム(UCLA)で講演会が開催された)



 

合田圭介, Ph.D.
Postdoctoral Fellow
Optoelectronic Circuits and Systems Laboratory
Department of Electrical Engineering, UCLA

札幌市出身。2001年カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)物理学科卒業、2007年マサチューセッツ工科大学(MIT)物理学科博士課程卒業、Ph.D.。カリフォルニア工科大学(Caltech)での研究滞在を経て、現在、カリフォルニア大学ロ サンゼルス校(UCLA)でポスドク。専門は医療機器開発、防衛機器開発、光エレクトロニクス、宇宙物理など。
 
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