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都市経済圏でカリフォルニアを視る プリント メール
UCLA Post-Doctoral Associate 本山 康之

第5回 動き出した日本人ネットワーク

前回は中国人やインド人のネットワークが、米国の特定の地域(ローカル)で彼等の起業家活動に貢献しているのと、彼等の母国とのつながり(グローバル)を強化しているかということを述べた。今回は、日本人の起業家ネットワークについて紹介したい。




1990年代初頭から2000年にかかるまで、日系の企業は盛んにカリフォルニアに進出してきていた。それは90年に800社ほどだった日系企業が2000年には1,050社を超えていたことからも分かる。しかし、ベンチャーやインターネットに集まってきた日系企業は、インターネットバブルが弾けてから急速に後退していき、2006年には885社にまで減少している。1その撤退の際には、次のような理由がよく聞かれたと思う。バブルが弾けて所詮シリコンバレーモデルを真似るのも無駄だと分かった、日本も不況が長引き本社の経営も厳しい、10年ぐらいシリコンバレーに拠点を構えていたが、特に成果も出なかった(出せなかった?)が主な3つであろう。いずれの理由にせよ、各社が撤退していく過程で、一つ興味深い現象が起きる。シリコンバレーに駐在していながら、会社という組織内の制約により思ったとおりの行動が取れなかった人達、米国の企業で活躍したり、またシリコンバレーの地で一旗揚げてみたかった人達がそれまでの組織を飛び出し、そしてその際、彼等が情報交換し、助け合っていくためのネットワークが出来上がっていった。2002年に次の二つの組織が発足したのは、決して偶然ではない。

Silicon Valley Japanese Entrepreneurs Network(SVJEN)は、「シリコンバレーを拠点として活躍する日本人起業家と起業活動を支援する人々の集まりの場」を目的とし、ラウンドテーブルと言われる税務や起業のための法律、ビザ取得などの分野で専門家を講師として招待し、情報を交換する会合を促進している。またネットワーキングパーティーを開催し、つながりの場を提供している。2

Japan Technology Professional Association(JTPA)は、「技術を志向する日本人プロフェッショナルがシリコンバレーで働くのを支援」する組織で、シリコンバレーで働く日本人エンジニアにだけでなく、日本に在住する若手エンジニアにも情報発信することを目的としている。そのため、日本から年一回20人ほどを招いてシリコンバレーを見学してもらうツアーも企画している。他にはギークサロンという集いでは、例えばグーグルの携帯電話向けのソフト基盤であるAndroidやFacebookのアプリケーションなど、かなり特化された技術の内容を少人数の興味あり知識ある人達が深く議論し合い、お互い学んでいくという会合も提供している。3

こうした日本人間のネットワークは、実はこの二つ以外にも存在する。Silicon Valley Multimedia Forum(SVMF)は、1994年にIT分野のエンジニアが中心となって発足したものだ。IT関連の情報を交換するだけでなく、ベンチャーキャピタリストを呼んで、ビジネスプランとは何か、どのような審査基準があるか、どう育てExitさせるか、またどんな失敗をして、それから何を学んできたかなどを話してもらうフォーラムなどを開催している。4

また、バイオの分野ではJapan Bio Community(JBC)が、これも2002年から活動を開始している。ITとは違い、バイオの分野では博士号が要求されるため、主に大学院やポスドク課程の人達が就職やビザの情報を交換し合う場となっている。また、製薬会社と連邦政府(FDA)が、薬の許可を巡ってどのように折衝するのかなどのその業界ならではの特殊事情を説明するフォーラムなども開催している。5

一方、南カリフォルニアではどうなのであろうか。バイオ・サイエンス系で、UCLA、アーバイン、サンディエゴの人達が発足させたSouthern California Science Network(SCSN)が存在する。その目的は「サイエンス・リサーチまたはビジネスに携わる人のための、大学や企業、職業による垣根を越えて気軽に交流することを目的としたボーダーレス・コミュニティ」6 ということで、JBCと非常に似ており、現に昨年8月には就職情報の関してJBCとの合同会合も開催している。

他にはJapan Business Association(JBA)というのも存在するが、これはどちらかと言えば、日本企業の米国支社の人達が集うものであり、上記のように起業を目的としたり、米国企業で働いていくことを目指すネットワークとは違うと思われる。

こうしたネットワーク組織に登録している会員数は数十人から数百人レベル、そして実際の各会合に集まるのは十数人~数十人程度ということで、中国人のように幾種もの業界ごとに特化した13の組織やインドのTiEのように数千人のメンバーを誇るものではないが、その目的と活動内容は、インド・中国人が行っているものと非常に似ている。第一にネットワークをして、人とのつながりの場を与えるということ、そして第二にその分野での専門的な情報を提供しているということである。これは非常に重要な機能だと思われる。

他方、こうした組織の主たる目的は、今のところは、シリコンバレーに居る日本人で、米国で起業するための集まりというローカルな側面のみの印象が強い。そこから、中国人とインド人が彼等の母国とのつながりを築いていったように、今後米国と日本をビジネスで直接つないでいくというグローバルなパイプが出来始めると、大きなステップになると思われる。

また、組織がまだ小さく、ごく少数の中心となる人材に依存しがちで、この人達の忙しさと意気込みにより、毎月のように会合がある場合もあれば、年一回ぐらいにまで下がってしまうこともある。また、会員やボードメンバーとなっている人達は、これらの組織でかなり重なっているが、それはそれで組織がオープンで人の行き来がよくあるという意味ではネットワークの健全性を示しているのであろう。

いずれにせよ、こうした組織が充実していくことは、一昼夜にできるものではなく、インド・中国人もビジネス一世代(15~20年)かけて培ったものであり、非常に時間のかかるプロセスなので、今後こうした有望な組織の発展を見守っていきたい。

 

  1. 東洋経済新報社「海外進出企業総覧」各年.
  2. http://www.svjen.org/mission.php
  3. http://www.jtpa.org/event/geeksalon/
  4. http://www.svmf.org/
  5. http://www.j-bio.org/
  6. http://www.scsn.us/
 
 

本山 康之、PhD.
UCLA主な研究分野は、グローバリズム、イノベーションの創出、そして都市経済学。コーネル大学大学院(公共政策学修士)、野村総合研究所を経て、カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得(都市計画学)。
 
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