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米国におけるビジネス・リスク管理と環境経営への取り組み プリント メール
JBA・JCC・JETRO共催 環境セミナー・シリーズ 

去る12月12日、ダブルツリー・ホテル・カーソンにおいて、JBA・JCC・JETRO共催 環境セミナー・シリーズの第1回として、「米国におけるビジネス・リスク管理と環境経営への取り組み」を開催した。 エーオン・リスク・サービスの上村太一氏による基調講演、日経アメリカ社の田辺雄氏によるコメントなど、当日の内容をダイジェストでお伝えする。

1.エーオン・リスク・サービス社 上村太一氏による基調講演

「米国におけるビジネス・リスク管理と環境経営への取り組み」


米国においても環境経営への取り組みが強まっている。とくにサーベインズ・オクスレー法(米国企業統治法。SOX法)等により環境に関係するビジネス・リスクについても公表が求められることにともない、環境ビジネス・リスクをいかに管理するのか、コンプライアンスだけでなく創造的なリスク・マネジメントの実施が要求されてきている。

リスクマネジメントとは?

環境ビジネスリスクについて説明する前に、一般的な米国におけるビジネスリスクの捕らえ方を紹介したい。そもそもビジネス・リスクとは、企業経営において組織の価値に影響を及ぼす不確実性であり、損害の生じる可能性である。 まずどのようなリスクがあるのか、事業ごとに分類して整理することができる。一般的な分類としては次のようなものがある。

  1. 経営リスク(経営戦略・方針の未整備・失敗、ブランド・評判の滅失、新規競合企業の参入、役員・従業員等の不祥事・違法行為等)
  2. 財務リスク(金融・運用リスク、収入の減少、取引先の倒産、不正経理、景気の減退等)
  3. 事業リスク(操業中・運送中の事故、火災・地震等の自然災害、施設・設備の整備不良・老朽化、環境汚染等)
  4. 法務リスク(知的財産権・肖像権等の侵害、契約上の賠償責任、規制等への遵守違反、住民訴訟)
  5. 技術リスク(ITシステムの重大な欠陥、データの破壊・消滅、個人情報の漏洩、コンピュータ・ウィルス等)
  6. 人的資本リスク(従業員の雇用に関するトラブル、優秀な人材の流出、リストラ・解雇、セクハラ・差別、仕事環境の安全性、労災・過労死、後任・後継者問題等)

これらのリスクをいかに管理するのか。たとえばリスクを個人の健康管理に置き換えて考えてみると、カゼのひき始めなど病気の兆候を認知することから始まり、できるだけ早期に症状を診断して対策を施すことにより健康体を維持する。これと同じようなサイクルをビジネスにも当てはめてみるといい。財務の損失等について分析・評価を行い、その損失の回避・軽減策を講じる、さらにはその損失の他者への転嫁あるいは自己保有を含めた対策をとり、健全な状態を維持できているか常にモニタリングする。このリスクの分析・評価、回避・軽減、転嫁・保有、そしてモニタリングという一連のサイクルを繰り返すことがリスクマネジメントの基本である。

具体的なサイクルの各過程をみてみると、リスク分析ではまず企業活動にともなう各リスクを分類し、リストアップする。手法としては「ひやり、ハっと活動」のようなものから、後述するエンタープライズ・リスク・マネジメントのようなより高度なものがある。ここで認識されたリスクについて評価を行い、優先順位付けを行う。たとえば損害発生頻度の分類(年間発生率の算定等)や損害の規模の分類(予想最大損害額の算定)によりリスクの度合い・重大度を評価することができる。

次にリスクの回避・軽減(一般にロスコントロールと呼ばれる)は、損害の発生を軽減・低減させることを目的として、たとえば災害の発生を抑制するために工作機械の安全装置を二重に設置したり、発生した災害を最小限に抑えるために防火戸・スプリンクラー・等の防災設備を充実させたりといった対策を講じることをいう。 リスクの転嫁としては、保険契約により保険会社へリスクを移したり、各種契約において契約書上で責任の所在を明確にすると同時に相手へリスクを移したりということが考えられる。さらにリスク保有としては損失のための準備金、資金プールの設定、またはキャプティブ保険会社(自家保険)の利用などがある。 最後に、もっとも重要なモニタリングがある。リスクマネジメントに終わりはなく、企業の変化、世の中の変化に応じて新たなリスクに対応して先手を打つことが望ましい。またその中でリスクコストを常に把握して見直していくことも重要な要素である。たとえば、コスト倒れになりかねない過剰な防災設備の投資は行わないなど、費用対効果を見極めた効率的な経営が理想である。

このようなリスクマネジメントのサイクルを基本としながら、最近ではビジネスを超えてテロなどのリスク一般に対する関心が高まってきていることも見逃せない。近年のリスクマネジメントに対する要請として、グローバル化や情報化、テロ問題、さらには環境への取組み等、社会の変化に応じてリスクそのものが多様化・複雑化しており、社会的なリスクに対する認識も変化してきている。とくに経営の現場では、SOX法の導入によりCEOやCFOが企業に関わるリスクを把握しておくことが必要になっており、リスクに対する認識が深化している。一部企業ではすでにエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)と呼ばれる、個々の企業のリスクを包括的に把握・分析する手法を導入している。ERMでは前述のリスク分類を部門横断的にとらえることにより事業部門間のギャップを除き、さらに企業全体として取り組むべきリスクの順位付けを行うことを可能にしている。

環境ビジネスリスク

このような企業を取り巻く状況の変化の中、環境リスクも重大なリスクとして認識され各企業でもリスク管理対象項目の上位に挙げられるようになってきた。これまでの伝統的なリスクがある程度予見できるものであったり、自動車事故のリスクのように顕在化しているものであったのに対して、環境リスクは顕在化していない潜在的なリスクであること、リスクに伴う被害額が増大する傾向にあること、企業ブランドへの影響などビジネス全般への影響が避けられないことがその特徴として挙げられる。とくに環境リスクにおいては、新たな汚染物質の発見などにより、ある日突然考えもしなかったようなリスクに直面する可能性がある。極端なケースでは、長年にわたり工場から排出されていた物質で気にも留めていなかったようなものが、近隣住民の健康に被害を与えていたと科学的に解明され、それに伴って巨額の訴訟が提起されようなこともある。さらにはこのような問題が報道されることにより企業イメージの悪化をもたらし業績に影響するといったことまで考えられる。

ここで米国の環境規制についても少し触れておきたい。米国では1967年のタンカー、トリー・キャニオン号の油濁事故や70年代のアスベスト訴訟の広がり等を経て環境規制が発展してきた。大気汚染防止法(1970)や水質汚染防止法(1972)が基礎となって、資源保全再生法 (RCRA、1976)や包括的環境対処・補償・責任法(CERCLA、1980)等が制定されてきた。他にも米国で企業経営を行う上で重要な法律としては有害物質規制法(TSCA – 殺虫剤、アスベスト)、飲料水安全法(飲料水中の鉛)、油濁防止法(OPA、1990)、緊急事態計画および地域住民の知る権利法(1986)、汚染防止法(PPA、1990)などがある。 また今後注意すべき規制としては、欧州ですでに導入されている化学品規制RoHS (Restriction of Hazardous Substances Directive)に対応した米国独自の規制の導入や地球温暖化ガス規制の強化等が想定される。またSOX法に加え、米国財務会計基準審議会(FASB)解釈指針47号(FIN47、2005)では、アスベストや埋設油槽など環境に配慮した処分が必要な資産の除去債務を負債として記録するよう指導している。

対応を誤れば企業の存続にかかわる問題となりかねないような環境リスクにいかに対応すべきか。前述のリスクマネジメント・サイクルを活用して考えてみたい。 環境リスクの分析・評価としては、規制の再確認、土壌・大気・水への汚染の再評価、汚染リスクの数値化、第三者から訴えられる可能性とその被害規模の算定などが挙げられる。回避・軽減策として、危険物質の使用を独自に禁止・限定、廃棄物の管理、削減(廃棄ゼロなど)、あるいはISO14000の取得等がすでに多くの企業で実施されている。保有・転嫁としては、自家保険・資金プールの活用や後述する環境保険の購入等がある。そしてモニタリングでは、新汚染物質の情報収集、環境規制の変化への対応、温暖化など環境全体の変化への対応、社内コンプライアンス体制の継続的な見直し、使用物質の継続的な見直し等が考えられる。

なかでも、リスク転嫁の手法として近年急速に発達しているのが環境保険である。一般に企業賠償責任保険(Commercial General Liability)及び超過賠償責任保険(Excess Liability)では環境汚染のカバーは含まれていない(ただし1970年代後半までに発行された保険証券は環境汚染を免責としていない可能性がある)。このため、環境汚染の危険性のある製造業者・土地/建物所有者・販売業者及び住宅関連業者に対して環境汚染に対応する環境保険が開発されている。主な環境保険には以下のものがある。

1.Environmental Site Liability Policy – Pollution Legal Liability Policy 現行の業務地での新たに発生する環境汚染及び既に存在していた未発見の環境汚染を担保する。

2.Remediation Stop Gap Policy – Cost Cap 既存の汚染状況を改善するための費用を担保する。ただし、Cost Capと呼ばれるように、1.当初推定された汚染基準値を上回った場合、2.法的汚染除去基準が変更され、追加的な汚染除去作業が必要となった場合についてのみ追加額を支払う。

3.Contractors Pollution Liability Policy 建設業者の過失にて、建設現場で新しい汚染状態を発生させる、または既存の既知の汚染状態を悪化させた時に建設業者の業務責任を担保する。主な保険金支払い費用:第三者の対人・対物賠償費用、除去作業、法的弁護費用が含まれる。

4.Underground Storage Tank Policy 地下貯蔵タンクから内容物が漏れたことによって生じた賠償責任を担保するほか、弁護費用も支払う。

これらの環境保険はAIGやZurich、ACE等の主な保険会社から提供されている。

一方で、いざ損失が発生した場合の対応も先進的企業では体系的に取り組まれている。危機管理対策として緊急マニュアルを作成したり、事業継続プラン(BCP)として復旧までの計画を立てたりしている。たとえば事業継続プランでは、被害状況の把握から始まり、被害拡大の阻止、被害者への対応、近隣環境・住民への適切な対応を細かに規定するほか、当局への協力や環境保護庁などに対する適切な対応についてもリスク管理担当者だけでなく社員全般に徹底している。そして、記者会見等のメディア対応を日ごろから訓練しておくほか、情報開示とともに風評被害の防止を念頭に細かな対策を検討しておく必要がある。また、事故・損失が発生した時点から何時間後までにどのレベルまで復旧させるのかといった復旧計画の策定も被害状況に応じた細かな対応策が練られている。

企業の環境対策または環境経営といえばとかくきれいごとに聞こえるケースが多いが、米国ではより現実的に企業全体のリスクマネジメントの一環として環境リスクを捉えている。リスクを積極的に分析・評価してその対策をとり経営環境の変化に合わせてモニタリングを繰り返すこと、そして費用対効果の面からも考えることにより、見せかけではない、経営に密接したかたちでの環境対策をとっているといえる。企業の存続、ひいては社会への貢献を考えるうえで、リスクをできる限りコントロールして、いざ環境問題を起こした場合にも逃げることなく対応することが企業に求められている真の環境経営なのではないだろうか。

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2.日経アメリカ社 田邊雄氏によるコメント

「企業体質を強める環境リスク・マネジメント」


環境に関わるリスク・マネジメントは企業活動を遂行していくための最低条件といってよい。環境経営というと、ネガティブな作業の積み重ねというイメージを持たれるが、対応を誤れば企業の存続を揺るがしかねない。そのため、企業内に、環境憲章を作成し、環境負荷削減のための指標を掲げている企業が一般的となった。 しかしながら、環境リスクを洗い出していく過程で、企業体質が強まるという効果もある。第1に、リスクがあるということは、現状の業務に何か抜本的な問題があるからだ。改善するために新しい仕組みを導入しなければならない。従来のやり方で、環境リスクが高まっているのならば、そのビジネスのやり方はもはや長続きしないだけでなく、続行を許されないという警鐘なのだ。第2に、環境課題が問われている分野は、新規事業の可能性を秘めている。新しいテーマなだけにサービス提供者が少ない。従来の製品やサービスの延長線上に、様々なビジネスが考えられるのではないだろうか。

 企業が抱える環境リスクには、「業務プロセス改善のヒント」や「新しいビジネスの種」という2つの要素が内包されているのだ。環境対応はコストがかかり、費用対効果が見えないといわれる。また、中小企業にとっては脅威でしかないと捉えられがちである。しかし、環境経営を企業体質の強化ととらえれば、多くの果実が収穫できる。

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